※この記事は当社元相談役の村山義彦が、不定期連載していたものです。
ガス事故が悲惨なものであることは、誰もがよく知っている。ガス事故には、ガス爆発事故とガス中毒事故とがあるが、ガス爆発事故に対しては、ガス洩れ警報機が普及していて防災対策がとられている。しかし、ガス中毒事故に対しては、ガスの不完全燃焼により生じ、中毒の原因となる一酸化炭素(CO)ガスを検知する「COガスセンサ」が、これまで精度が悪かったり、高価であったため、警報機の普及が進まず、対応の遅れが問題となっていた。
この事態を重視した、社団法人日本ガス協会は、1995年11月、都市ガス三社と、ネモトを加えたセンサ七社とでワーキンググループを結成させ、給湯器用COセンサの開発を進めた。そして、1997年3月には、矢崎計器株式会社製とネモト製のセンサとが、目標仕様とコストを満たすものであることを明らかにした。
その後、さらに東京ガス株式会社、大阪ガス株式会社、 東邦ガス株式会社、の三社は、COセンサの搭載機種の拡大を図るため、センサの更なる低コスト化を目指して研究開発を進めた。そして、その成果を、2000年5月30日に開催された都市ガスシンポジウムにおいて発表し、ネモトの接触燃焼式COガスセンサが、性能、耐久性、価格のすべてにおいて、要求を満足するものとして、家庭用ばかりでなく、業務用用途にも適用可能であり、今後の普及が期待できることを示した。*1
給湯器用COセンサの開発において考慮しなければならないことは、都市ガスでもプロパンガスでも不完全燃焼したときには、COガスばかりではなく、同時に水素ガスも発生すること、また、給湯温度によって排ガス温度が60~200℃の範囲に変動すること、さらに、普及できる価格までコストを下げることであった。
写真.給湯器用COセンサ NAP-78A (大きさ:取付金具の長手方向で46mm) |
ネモトの開発チームは、これらの難問にチャレンジし、すでに10年以上の市場実績のある接触燃焼式ガスセンサの、触媒の改良で対応可能でないかと考えて研究を進めた。そして、1998年11月、ようやく安価な汎用型としては、世界初の給湯器用COセンサの開発に、成功したのである。
ネモトの給湯器用COセンサの特徴を挙げると、次のとおりである。
- 検知濃度範囲は、0~3,000ppmで、ガス感度は図1に見られるように、良い直線性があり、精度よく検知できる。
- 使用温度範囲は、-25℃~260℃である。
- 耐久性は、13,000時間の実機テストにおいて、図2に示すような成績が得られており、充分に10年間の実用に耐える 性能がある
- 硫黄に対する耐性に優れており、定期的なヒートクリーニングが不要である。
- 触媒機能の向上により、排ガスの温度による影響を補正する回路が全く不要である。
図1. COセンサ ガス感度特性 | 図2. COセンサ 耐久特性 (給湯20分停止5分繰返し,CO:1,000ppm,H:500ppm) |
写真.COセンサを搭載したリンナイ製給湯器 ユッコ16 |
ネモトの給湯器用COセンサは、すでにリンナイ株式会社、高木産業株式会社、の給湯器に搭載されて、実用が始まっているが、これから広く普及していくものと期待している。
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図3. 上海市都市ガス中毒事故発生統計 |
上海市燃気管理処の祝 偉華らの報告*2によると、1990年から1998年4月までの上海市におけるガス中毒事故の発生は、図3に示す通りであるという。上海市では、近年ガス使用戸数が年間10万戸を超える伸びを示しており、それに伴って中毒事故も急増している実態を明らかにして、その対策が急務であることを指摘している。このような状況は、発展途上の多くの都市が抱える問題であろう。ガス中毒事故を防止するCOガスセンサの需要は、今後、アジアだけでも膨大なものになると推量され、ネモトのCOセンサの前途は、揚々たるものがあるのではなかろうか。
注釈)
*1 都市ガスシンポジウム発表要旨集(日本ガス協会),P107(2000)
*2 城市公用事業:第13巻1999第1期,P19(1999.2)