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『防災安全とネモト~電気化学式一酸化炭素センサ』 (2001/04/01)

  • 2001.04.01
  • ネモトの技術

根本特殊化学株式会社 元相談役 村山義彦

※この記事は当社元相談役の村山義彦が、不定期連載していたものです。

 21世紀の幕開け早々、日本列島に居座った大寒波は、東北から北陸地方にわたって大雪をもたらした。
そして、雪に埋まった軽自動車の中で、男性が一酸化炭素(CO)中毒死するという事故が、金沢市で発生した。石川県消防防災課のまとめでは、1月17日までに県内でマイカーなどの排気ガスによる一酸化炭素中毒事故は計13件も発生し、死者3人、中毒患者13人にのぼり、中毒患者のうち9人が子供であった。二人の女児が車内で倒れたケースでは、母親がエンジンをかけた車に子供を乗せ、除雪用のスコップを探しに行った僅かな間の事故だったことを、18日の朝刊は報じている。

一酸化炭素中毒は非常に致死率の高い恐ろしい中毒である。一酸化炭素は燃料などが酸素不足で不完全燃焼したときに発生するガスで、呼吸すると肺で血液中のヘモグロビンに結合し、ヘモグロビンの酸素を体内へ運搬する機能を失わせ、その結果、まず脳神経が酸欠になり、判断能力や運動能力の低下を引きおこし、避難行動がとれずに死に至るのである。

アメリカでは、暖炉や車が家の中にあるという家庭が多いことから、一酸化炭素中毒の危険性が高く、1992年4月には、一酸化炭素警報器の性能基準を「UL規格」*1で定め、州や市単位で一般家庭の警報器設置を法律で義務付けた。7年程前に有名なスポーツ選手が一酸化炭素中毒事故を起こしたことを契機に、一酸化炭素警報器の普及が促進されたということである。非公式情報ながら、1996年には800万台もの警報器が全米で売れたという。しかし、これらの警報器は半導体式一酸化炭素センサが用いられており、その性能が充分でないことから問題があった。5年程前、ある夜シカゴで数百台の警報器が一斉に誤報を発する事件が発生したこともあって、1996年10月と1997年10月に相次いでUL規格の見直しが行われ、警報濃度の基準が非常に厳しく設定された。これによって、それまでの半導体式一酸化炭素センサを用いた警報器は、検定に合格しにくい状況となった。

一方、ヨーロッパにおいては、アメリカの状況を受けて一酸化炭素警報器の検定規定の制定における検討のなかで、UL規格よりさらに厳格な基準を規定し、2001年春にも「EN50291規格」*2として発布される見通しになっている。

ネモトのセンサ開発チームは、こうした信頼性の高い一酸化炭素警報器を求める世界的なニーズを捉え、
UL規格やEN規格をクリアーする新しい一酸化炭素センサの開発に取り組んだ。そして、半導体式とはまったく違った検知原理で、高性能で信頼性が高く、しかも安価な「電気化学式一酸化炭素センサ」の開発に成功した。

電気化学式ガスセンサは、化学反応(酸化還元反応)によって発生するエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことによって、ガスを検知するものである。一酸化炭素の場合の化学反応は、触媒による次の化学反応で示される。

CO + H2O -> CO2 + 2H+ + 2e

動作原理図
図1.電気化学式ガスセンサの動作原理図

 図1の動作原理図に示すように、検知電極で一酸化炭素の酸化反応がおき、それによって生成する水素イオンと等量の水素イオンが、対抗電極で空気中の酸素と反応して水を生成する。この一連の反応によって発生する電流は、検知電極側のガス濃度に対応するため、この電流を測定することでガス濃度を検知することができるのである。

 

 

NAP-701

写真.電気化学式ガスセンサ NAP-701

 

ネモトの電気化学式一酸化炭素センサ「NAP-701」の特長は、これまでの半導体式や接触燃焼式のガスセンサにない、次のような優れた点を有している

  1. ガス濃度に対して、直線性の高い(リニアな)出力特性が得られる。
  2. 再現性に優れている。
  3. ガス選択性に優れている。
  4. 大気中での出力変動(ドリフト)が小さく、安定した出力特性が得られる。
  5. 湿度の影響を受けない。
  6. 加熱系を持たないため、電力消費量が少なく、電池駆動のガス警報器が可能になる。
  7. 小型、軽量である、ポータブル機器への搭載が容易である。
  8. 機械的に弱い部分を持たないため、振動や衝撃に対する耐久性が高い。

 

NAP-701 ガス感度特性
図2.NAP-701ガス感度特性

NAP-701センサのガス感度特性は、図2にみられるように、ガス濃度に対して直線的な出力特性をもち、低濃度領域のガスを確実に検知することができる。

 

 

 

NAP-701 湿度依存性

図3.NAP-701湿度依存性

 

 

また、湿度に対する特性は、図3に示すように湿度の影響をほとんど受けず、50℃,90%という高温多湿の中に一月間置いた試験でも、何ら異常が発生せず、耐久性が高いので、半導体式センサを用いた一酸化炭素警報器のように湿度の影響で動作が不安定になることを心配する必要がない。一般的に、電気化学式センサは、高湿度中で性能が安定しているものは、逆に低湿度中では安定性が悪い傾向にあるが、NAP-701は構造を工夫することで、低湿度中でも、極めて安定した特性を維持している。

 



 ネモトは電気化学式一酸化炭素センサ NAP-701の発売を予定しており、世界中から関心が寄せられることを期待している。これからは、生産技術の改善によって、さらにコストを切り下げることで、需要の大きい民生分野での幅広い利用が進み、恐ろしい一酸化炭素中毒事故を防止することに役立つことを願っている。

 

注釈)
*1 UL規格 ; “Underwriters Laboratories Inc.(UL)(米国保険業者安全試験所)は、アメリカにある製品安全試験とその証明組織で、そこで定めた規格をいう。ULによる証明は世界的に認識されており、証明を受けULマークを付した製品は、各国でも信頼されている。
*2 EN規格 = European Standard(EN) ; “CEN(欧州標準化委員会)”と”CENELEC(欧州電気標準化委員会)”と共同で制定している欧州統一規格。EN50291は、CENELECの管轄。
(EN50291 ; Electrical apparatus for the detection of carbon monooxide in domestic premises – Test methods and performance requirements)

Copyright 1999 by Nemoto & Co.,Ltd , Yoshihiko Murayama

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